12、僕の姉さん最悪姉さん



 コウ兄さんに同棲に至った経緯を説明した。そして僕たちがそういう仲でもないことも。僕が説明している途中で何度かキンちゃんが話の軸を歪めようとしたが、その度に僕は無視をして話を進めた。「君は将来つまらない人生を送るよ」というキンちゃん。僕は平凡な人生を送りたい。それをつまらないというかどうかは個人の感覚しだいだろう。

「んー、ルームシェアという形と認識していいのかな?」

「そう、そんな感じです。恋仲とかじゃ一切ありませんから」

「まあそうなんだが・・・・・・・・。イブキ君。つまらん、君は本当につまらん。遊び心がないな」

「遊ばれる心はないよ」

 キンちゃんはワンピースに着替えている。暑い格好は嫌らしい。

 本心を言う。いじられまくってたまるか。

「しかしだな、飛沫。この彼女の言うとおり、彼女ということにしたほうがいいんじゃないか?そっちの方が異性の友達と同居というよりも納得できるし」

「そうなんだけど。あれだよ。コウ兄さんの姉さん・・・・・・・・・過保護じゃん」

 あえて母さんという言葉を選ばなかった。自分の姉ちゃんという感覚をしっかりと自覚させたほうが現状を分かりやすいだろう。

「あー、確かに何らかのリアクションを起こすだろうな。怒るか悲しむかはわからんけど。それでも、恋人との同棲と言ったほうが話はまとまると思うんだが」

「そうなのかなぁ」

 コウ兄さんは大人の意見を言った。学生が恋人と同棲とはどうかと思うけど。まあ現状を見るに僕がそんなこと言えんのだが。

「どうしよう」

 コウ兄さんが姉さんに電話をしてから既に三十分が経過していた。姉さんはいつ着くか分からない。自宅からだったら二時間、仕事場からだったらそろそろ着く頃だ。

「そう言えば姉さんどこから電話してたの?」

「仕事場から」

 来る。程なくして奴は来る。

「どうしよう、本当にどうしよう。今更友達が遊びに来てただけって言っても信用しないだろうし。正直に友達と言うかそれとも嘘と言うか」

「それじゃイブキ君、友達にしようか」

「何故?」

「面白そうだから」

 修羅の道しか選ばない人もどうかと思うけど。

 

 外から車のけたたましいエンジン音が聞こえた。少し時間を置いてからエンジン音が鳴り止む。

「お、来たな」

 コウ兄さんが窓から身を乗り出して駐車場を確認する。

 車のドアが閉まる音か聞こえる。

「ど、どんな感じ?」

「・・・・・・・・・・・あー、・・・・・・・・・・・グリーングリーン歌ってる。」

 今日はグリーングリーンか。僕の人生終わるかもしれない。

「何故にグリーングリーン」

 キンちゃんが少し笑いそうになりながら僕たちに話しかけるが、二人とも無視をした。そんなことに答えている暇は無い。

「グリーングリーン久しぶりに聞いたな。というか俺ここに居る必要ないよね?俺は帰るよ?」

 この惨状を作り、無責任にも帰ろうとするコウ兄さん。

「呼んだのコウ兄さんじゃないか!」

「いずれ来る日を早めただけだ。俺には一切罪は無い。全てはお前のため」

 カツンカツンと鉄の階段を歩いてくる音が聞こえてくる。

その音に敏感に反応してコウ兄さんは窓から逃げようとした。ここは二階なのに。

 それじゃ、と二階から飛び降りる。足を骨折する可能性よりもこの場にいないことをとったみたいだ。僕も出来ることならそうしたい。

 そして地面から着地する音が・・・・・・・・・・・聞こえない。

 コウ兄さんの体が中に浮いている。

「おおー」

 キンちゃんは隣でその浮いている姿を見て拍手している。何かのマジックだと思ったらしい。

 しかし僕の目にはコウ兄さんが浮いている原理がハッキリと見て取れた。窓の横から彼を支える手が伸びている。

 数秒後にコウ兄さんは再度家の中に入ってくる。詳しく言えば投げ入れられて転げまわりながら、再度家の中に入ってきた。

 壁にそのまま激突し、「げふ」と軽い悲鳴を上げた。

「おい!イブキ君。今のマジックはどうやったんだ!最後空中から飛んできたぞ」

 喜んでいる人が約一名。

 僕はその言葉に反応できなかった。目は窓を捉えているところで固定されている。

「やっほ!」

 そして窓の外から顔がニュッと出てくる。僕の青春時代をギッタギタのトラウマに染め上げてくれた姉。ハッキリ言うと二度と見たくない顔が出てきた。

「・・・・・・・・・・やっほ」

 僕はやる気の無い声で返した。

 外からは僕の玄関の前を通り過ぎていく音。

 どうやら外の靴音は関係なかったみたいだ。



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