33、あの日の思い出の行く末


 人は誰しも心の中に他人には話さない。内なる思いがある。

 それは他人に対する嫉妬だったり、親愛なる感情、欲情、食欲だったり、アガペーだったりする。

 基本的にはそれは誰にも話さず自分のうちにとどめ置き、そして墓場まで持っていったり、思ってもないところで誰かに話したり。

 それじゃなければ日記、ポエムなどに変わったりする。

 そこには大体誰にも見せたくない感情がこめられている。その日を忘れないように、そしてその日の思いをそこに記すために。

 形は違えど、僕の絵もそのような感じだ。ポエムに近い絵日記。

 素晴らしいものを見ては感動し色を乗せる。

 何かに苛立ち、絵に感情をぶつける。

 そこにはその日の僕がいる。

 そしていま、僕の目の前には昔の僕がたくさんいた。

 僕の感情、誰かに見られている。

 僕は顔を青くしながら叫ぶ。

「何で!何でここにこれが!」

「売った。以上」

 無表情で当たり前のようにその言葉を吐き出す姉さん。

 その言葉の続きを待っていたのだが、姉さんは一向に口を開かない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・え?なに?終わり?それで終わり?以上じゃねえよ!異常だよ!」

「カエルじゃないよアヒルだよ」

「意味わかんねえ!しかも何?売ったって?馬鹿げている。僕の絵にそんな価値があるわけないよ」

 僕の絵が売れる?そんな分けない。こんなの独学もいいところだ。誰の絵にも似ていない。そこには売れる要素がないのだから。こんなど素人の絵を買う奇特な人がいるものか。

 僕と姉さんが会話を交わす。その横でキンちゃんが首を振っていた。

「いままで黙っていてイブキ君には悪いと思っているけど、その話は本当なのだよ。うちの父さんがお金を出して買っている」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 いや、だから金を出す価値がないって。こんなへたくそで色彩感覚が悪く、デッサンもまともに取れていないような。

 僕はいままで、自分の絵に満足したことなどない。自分が満足できるような絵は描けたことがない。僕なんてまだまだだ。まだまだまだまだ。

 僕の考えが僕の中で円を描くようにぐるぐるしていると、キンちゃんが補足するかのように語りだす。

「最初はタダ同然だったのだよ。しかしながら、とある一部の愛好家たちに火がつき、そして価格は上昇し、お金が飛び交うようになったと聞いている」

 お金が飛ぶ?羽でも生えてんのか。

「い、いくらで?」

「雫姉さん。いままで父さんはいくらだしたのかい?」

「・・・・・・・・・・・・・・・一千万近くじゃね?」

「いあいあいあいいあいいいいい一千万!」

 いやおかしい。その金銭感覚はおかしい。ここには僕の作品が三十作品以上見受けられるが、それで割っても一つ三十三万以上するよ?

「ペリカじゃないよ?」

 キンちゃんが喋る。

 なんだ?ペリカって。

「そ、そんなにお金出さなくていいよ!あげるよ!タダで!」

 自分の日記のようなものにそのような金額をつけられても気が引ける。

「・・・・・・・・・・・・・だから最初はタダだったのだよ。今ではタダで取引されるわけがない。今の作品のほうがいい値が付いているみたいだから」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・勘弁してくれ」

「まあ、それはそれでいいと思うよ。しかし、ここに問題がある」

 なに?税金とか?確かに不労所得のようなものだ。よく知らんけど、消費税と同率に考えると五パーセントで・・・・・・・・・・・・・・・・五十万!ごごごごご五十万!

は?僕が払うの?だよね?僕の絵が売れているわけだから!

「ご、五十万なんて大金持っていません!」

「・・・・・・・・・?いや、何で五十万なのか、そもそも何が五十万なのか意味を問いかけるべきところだと思うが恐らく、イブキ君の思考と私の思考がいいたいところは違うと思うよ」

「え、あ、そう」

ひとまず税金は違ったらしい。

「それじゃあ何?」

「問題は、・・・・・・・・・・・・・君が知らないところでそのような大金が動いていたところにある」

「はあ」

 思わずへんな相槌がでる。

 僕の知らないところで、うん。確かにだ。

 けど何がいいたいか分からない。

 キンちゃんは少し間を置いてから、口を開く。

「・・・・・・・・・・・・・・その絵の売買をしていたのは、君の姉さんだ。君はそのお金をもらったことがあるのかい?」


 ええ・・・・・・・・・・・・・・っと。

 記憶を掘り起こしてみる。

 結果→

「そんなの勿論もらって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・姉さん!!!!」

 さっきまで姉さんが突っ立っていた場所に目をやる。すっからかん。

 いねえ!

 そういやおかしいと思った。最初らへんで説明をしたきり、一切会話に参加していなかった。最後の言葉は・・・・・・・・・・・・・・・「一千万くらいじゃね?」。あ、お金の話以降でてねえ。確信犯だ。

 パリン、と窓ガラスが割れる音が聞こえた。方向的にはいまさっき僕たちがお茶を飲んでいた応接室の方向だ。

 僕とキンちゃんは一瞬目を合わせて、その場所へと向かう。僕は道を覚えていないのでキンちゃの後をついていく。

 そしてたどり着く。

 そこには、窓のほうを向き、呆気にとられたように、割れた窓ガラスを見ている面々がいた。

 何だ?何が起こっている?

 周囲の心情はそんな感じなのだろう。

「ぼ、僕の姉さん何処に行った?」

 僕は梓ちゃんに問いかける。

「そそこに置いてあった自分のバッグを掴んでそこから・・・・・・・・」

 そういって梓ちゃんは割れた窓を指差した。

 姉さん。そこまでして。というか窓ガラス割る意味が分からない。

 僕は思う。お前は怪盗かと。

 まあ泥棒ではあるのだが。


ばっく  とぷ  ねくすと