「あ、そこの醤油とって」
「お、イブキ君はから揚げ醤油派か。はい。塩分の取りすぎには注意するんだよ。ちなみに私はマヨネーズ派だ」
「なんで油で揚げたものに更に油物つけるんだよ・・・・・・・・・」
「イブキ君だって醤油に漬けたものに更に醤油かけてどうするんだよ・・・・・・・」
軽口で互いの嗜好を罵り合う。普通醤油だろ。ここのから揚げ醤油の漬け込み方足りんし。
そして僕の隣では黙々とから揚げに塩コショウを振りかけて食べる花中島。将来高血圧になりそうだ。
そして木島。この合コンという企画を立ち上げた張本人は一生懸命女の子に喋りかけている。愉快な男だ。
「しかし合コンって意外と普通にご飯食べるんだね。イベントはこの後するの?」
「・・・・・・・・・・イブキ君、もしかして合コン行ったことないかい?」
「あーイブキは俺が誘うたびに面倒くさいお金がないってすぐ蹴るんですよ」
「だって合コンって合同コントの略だろ?何のために他人とコントしないといけないんだよ。いくらお笑いがブームで人気があるからってわざわざ自分たちでコントしなくてもいいじゃない。テレビ見るだけで我慢しとけよって話だ」
わざわざ楽しくなるために自分たちで何故にコントまでしないといけないんだろう。意味が分からない。
「ちょいと木島君、こっち・・・・・・・・・・・・・・木島君、この人はマジ?」
「マジ、超マジ、ミラクルマジ。俺と大学で出会って俺が合コンに誘う度に同じこと言ってる」
僕から離れて二人でコソコソと話をしているキンちゃんと木島。この二人が二人で話をし始めるとろくな事がないような気がする。
「・・・・・・・・・・・・・・イブキ君」
「んーなに?」
「合コンって単語誰に教えてもらったんだい?」
「姉さん」
『やっぱり』
「なんだよ・・・・・・・・・やっぱりって」
「まあ面白いからそのままにしておこうかね」
「そうだね」
「なんだよ、やっぱりって!」
「まあまあ、ところで木島君、女の子はいい感じかね?」
「へい!温めておきましたぜ姉さん」
そういうと女の子を紹介するように手を滑らせる。
「右端から日当山(ひなたやま)さん、山入端(やまのは)さん、端田(はしだ)さん、田城(たしろ)さんの漢字しりとり四人組です」
木島が端から順番に紹介していく。
『よろしくおねがいします』
四人が綺麗にはもって挨拶する。
っつーか飯を食い始めて一時間あまりたっているのだが、紹介も居間さらだろう。
それぞれ右端から、黒縁眼鏡のおさげ、チェックのロングスカートをはき、上はブラウス。おしとやかに座っている日当山さん。
髪を短くし、肌は少し黒め。そして全身ジャージの山入端さん。
この糞暑い中黒い革パンをはいて、上着はタンクトップ髪はベリーショートの端田さん。
長い黒髪に白い肌、何を考えているのか分からない目をしている田城さん。ちなみに服は全身真っ白。白シャツに白いパンツ。
まさにバラバラな人種がそろっている。これはどんなコントを作るつもりなのだろうか。ちょっと楽しみな気がする。
「よし、それでは引き続きお酒をお楽しみください」
と木島が仕切る。これほど生き生きと人前にでる木島を見たことがない。
というかコントはいつ見れるんだろう。あ、っていうか僕も何かコントを考えないといけないのか?・・・・・・・・・・・・・・無理だ。無理すぎる。僕はほとんどテレビも見ない。バラエティ番組なんか尚更だ。あれを見てるとなんだか時間がもったいないような気がする。気がつけば夜中になっている。楽しくないとは言わないけれども、うるさい番組を見るよりもNHKをバックミュージックにのんびりと本を読みながらお茶を飲んでいる時間のほうが好ましい。漫才やコント自体は好きなんだけどね。
僕がそんなことを考えていると、僕の正面に座っている日当山さんが僕に話しかけてくる。
「ど、どうもこん・・・・・・・・・にちは」
「えっと、日当山さんだっけ?どうもこんばんは」
「え、あ、ごめんなさい・・・・・・・・こんばんは」
謝られた。同じようにこんにちはって言っておけばよかったか。僕の無神経な挨拶にオドオドと返事を返す。
ぬう、目を逸らしたままお酒を飲み始めてしまう。やりにくい。この子はこんな性格でコントなんてできるのだろうか。・・・・・・・・・・・・・それとも既に役に入っているのか?だとしたらかなりプロ意識が強いな。
「えっと、日当山さん。合コンってはじめて?」
「え・・・・・・・・・・・・その・・・・・・・はい。初めてです」
ふむ。どうやら素の性格みたいだ。その引っ込み思案を治すためにコントに参加したということなのだろう。
「僕も合コンって初めてなんだよね。いつ始まるんだろうねコント。僕コントなんてしたことも考えたこともないからね。どんな風にするのかさえわからないや」
「え、あ、え?」
「ん・・・・・・・・・・・・え?」
「あ」
「ん?」
きりがない。
「えっと・・・・・・なに?」
「え・・・・・・・・・・あの、何でコントなんですか?」
「え、何でって。これって合コンでしょ?合同コント」
僕がその一言を言うと日当山さんは目を点にした。
え、なんでだろう。
そして一瞬の間、後に日当山さんは噴出した。それも気持ちいいくらいに思いっきり。
「あはははははははくくくくくくくくくくあはははははご、ごめんなさい!ははあはだめ!お、お腹が」
そして遠慮無しに切れ間なく笑う。
「なんだ!なに!どうしたの!なにか面白いことあった!教えて!教えて!」
僕は周りを見渡すが、何が面白いのか分からない。
しまった。既にコントは始まっているのか。これは気が抜けない。
「チクショウ!コント始まってるのか。どれ?どの人?」
僕が日当山さんに質問すると更に笑いは大きくなった。
「くくくう、ほ、本気で言ってるんです・・・・・・・あははは、だめ、もう駄目です」
なんだチクショウ!どこだ、どこでやってる!
「何々?どうしたの?」
しりとり組み残り四名が日当山さんの周りに集まってくる。
そして日当山さんは笑いながら小声で説明する。勿論僕には聞こえない。
日当山さんの説明が終わったらしく、四人は同時に僕を見る。日当山さんは引き続き笑っている。どうやら思い出し笑いをしているらしい。
「えっとなんだっけ、和泉くんだったっけ?」
全身真っ黒けの人が僕に話しかける。名前なんだっけ?
「はい。そうですけど」
「合コンのコンってどういう意味?」
何分かりきったこと言ってんだこの人?
「合コンのコンはコントのコンだろ」
そしてまた静寂。
爆発する場。
全員が一斉に笑い始めた。爆笑。僕以外。なんだこれ。僕わらわれているのか?ぼくは何もしていないぞ?
「すごい、あれだ、君はサンタクロースを中学生か高校生までいるって信じていたタイプだろう」
またまた黒い人が僕に質問してくる。キンちゃんといい、この人といい、僕はきっと押しの強い人に弱いな。多分だけど。
まあいい。しかし何だ?この人はさっきから。舐めたことを言ってくれる。
「あははは、なに言ってるんですか?こんな歳になって。サンタクロースが存在することを信じていないんですか」
僕は言ってやった。何言ってんだこの人は。サンタクロースがいないわけないだろ。
場が一瞬静まり、そしてざわつき始める。
「いや、ちょっとこれは重症じゃないか?」
「ちょ、木島何がだ」
「あの姉さん、なんて理想的な子供を育ててくれたんだろう」
「キンちゃんまで何言ってるの」
「存在することを信じていない・・・・・・・・・・・まあ宗教ってのは個人の自由だからな」
「ちょいとまて、サンタクロースは宗教じゃないぞ」
何だ?僕以外は全員サンタクロースはいない派なのか?そんな馬鹿な。クリスマスの度に僕の枕元に置かれているプレゼントは何だ?一切口に出したことのないような欲しいものを僕の枕元においていってくれるんだぞ?靴下の中に願い事を書いた紙を入れるわけでもない。去年のクリスマスも僕の枕元には・・・・・・・・・・・・・大量のお米が!
ちょっとまて。まさか、今僕はいたい子なんじゃないのか?
「・・・・・・・・・・・・・そういう夢をいつまでも持つことは素晴らしい心の持ち主だと思います」
日当山さんはそういいながら僕を慰めてくれる。
ごっつ笑顔で。笑いをかみ殺しながら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・。
チクショウのチクは生きるのショウを刺す擬音語じゃないかと思った。
ヤバイ。みんなの目が痛い。哀れみと嘲笑の感情を孕んでいる。
痛い、ちくちくする。
「な、なーんてな!サンタクロースなんかいるわけないよね!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
はい。みんなムゴーン。
「きっじまー―――――――――!酒だ!僕に酒をもってこい!」
心の痛みを木島と酒にぶつける。
「嫌だよ!だってイブキがお酒飲むたびにお前に彼女増えるんだもの!しかもかわいい子ばっかり!それに男にお酌して何が楽しんだよ!」
「増えてねえよ!馬鹿じゃねえの!それにお前の楽しみなんか知らん!いいからピッチャーでビール持って来い!」
「今日は俺による彼女たちのための合コンだ。ヴッチャケ彼女たちが男慣れするための合コンだ。だから無害なお前を連れてきた」
木島の「ブ」の発音が気持ち悪かった。
「キンちゃんはお前の今のモテップリがどのくらいのものかその目で確かめたいといってきたんだ。醜態晒してどうする」
木島の「プリ」の発音が気持ち悪かった。しかも当のキンちゃんは僕を見ながら爆笑しているし。
「いいから・・・・・・・・・・・・・早く・・・・・・・・・・・・・・僕の心は折れてしまう」
「だ、駄目だ。言いくるめられねえ。花中島、キンちゃん。こいつ止めてくれ」
「ピッチャーの中継ぎもブルペンで温めとかないといけないね」
「こ、この人も駄目だ。花中島・・・・・・・・・・・・・・」
木島は花中島に助けを求めるが、花中島は携帯のアプリで遊んでいる。
「キッジマー!」
「は、はい!・・・・・・・・・・・・・・・やっぱりこいつはあの人の弟だわ」
木島はぶつくさと言いながら、僕の目の前にビールを持ってくる。
そして僕は一気にそれをあおる。
一滴残さずに飲み干す。
乾杯とは杯を乾かすと書くものなりりけりり。
「木島!次だ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・もう知らん。俺は知らんぞ」
「イブキ君!中継ぎ投手だ」
そういうとキンちゃんが僕の目の前にジョッキのビールを一気に3本置いた。
にやけながら。
視線が痛い。そして心が痛い。
サンタはいる。
いるにけり。
泡が胃に溜まる。
腹いっぱいだ。
そしてアルコールは回る。
世界も回る。
あー
いー
つぎだつぎをぼくにくれ
目覚めと同時に酷い頭痛が僕を襲った。
「あ、頭が割れる・・・・・・・・・・・」
昨日の記憶を探りながら体を起こそうとするが誰かに体を絡め取られて体が起こせなかった。
あー、またキンちゃんと梓ちゃんか。
僕はそう思いつつ左右を見た。
下着姿のキンちゃんと梓ちゃんが僕に抱きついていた。
しかし僕の考えは三分の一あたっていた。
残りの三分の二は当たっていなかった。外れていたというよりも、当たっていなかったわけだ。
ベッドに更に女性一人、そしてベッドの下に毛布だけを敷き寝ている女性三人。
それぞれ下着、半裸で寝転がっていた。
「・・・・・・・・・・・・・」
きっとアルコールが残っているのだろうと思い、僕は布団に顔を伏せた。
だって現に頭が痛いし。
それに正直絶叫するにも飽きた。