26、女性清流院


 結局、僕はその後絵を描き出した。花中島は煙草を呑みながら水墨画の画集を見ている。

 二人とも一緒の講義をとっているため、さっきの話が終わった後も部室で時間をつぶしている。

 僕の筆は軽くなった。心が軽いとはこのことだ。きっと感情には重量があるのだろう。嬉しい悲しいで重量が違ってくる。きっとそうに違いない。

 僕と花中島はたまに話をする程度で、基本的には無言のまま時間を過ごした。

 僕たちの講義が始まる二十分くらい前に、部室のドアをノックする音が聞こえた。

「おはようございます。イブ・・・・・・・・・・・飛沫君いらっしゃいますか?」

「あ、はい。僕ですけど」

 部室のドアを背にしながら、僕は絵を描いていたため、思わず僕は敬語で反応してしまった。

 椅子から立ち上がり、そしてドアの方向を見る。

 そこにはキンちゃんらしき人が立っていた。

「お、花中島君とイブキ君だけか。敬語使って損したな」

「け、敬語は使っても損しないもんなんだぞ!」

 思わず僕のツッコミが可愛らしくなってしまった。

 そこには確かにキンちゃんがいた。

 しかし、キンちゃんだと認識するのに少し時間がかかってしまった。

 夏休み前の服装とは違う。以前はラフな格好、主にジーパンとTシャツという格好だったのだが、今のキンちゃんはどうだ。初めて見た。スカートをはいている。長すぎず、短すぎず。そして上半身もスカートに合った格好で綺麗に纏めていた。

「な、なんで女性の格好してるの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・イブキ君ってたまに酷いよね」

 そういいながらキンちゃんは部室の中に入ってくる。

 僕と花中島は無言でその姿を目で追ってしまう。

「・・・・・・・・・・・?なんだい?君たちは次の講義でないのか?運よく私も同じ講義を取っているのだが、代返でもしとこうか?」

 そう言うとキンちゃんは僕と花中島の声を出した。

 僕たちが言いたいのはそこじゃない。

「今日なにかあるの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱりこの格好変かい?」

 そういいながら自分の格好を見直すキンちゃん。

「いや、全然。本当に似合ってる」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・んまあ、嘘でも彼氏に服を褒められると嬉しいものだな」

「か、彼・・・・・・・・・・いや、まあ似合ってる。・・・・・・・・・・・・・・しかし何で?」

「校内で彼氏と会うんだよ?女性の心情的には綺麗な格好で会いたいと思うのが普通だと思うのだが。そして君はこの服装が似合っている私を恋人に持っているんだから存分に自慢しまくればいい」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何を言ってるんだこの人は?

 3人沈黙。

 僕と花中島は閉口した。

「自慢しまくればいい。・・・・・・・・・・・・・・・・この人アホだろ」

「うお!花中島が人をアホって言った!しかしその通り!」

 本気でそう思ったらしい。僕もそう思う。

 コホンとわざとらしい咳払いをしながら、キンちゃんは言葉を繋げた。顔は真っ赤だ。自分がアホな事を言ったと自覚しているらしい。

「ほら!君たちは次の講義に行かないのかね!私はもう行くよ!」

 誤魔化す。言葉通り誤魔化した。

「・・・・・・・・・・・・・・・・仕方ない。行くか。花中島」

「行くか。行くぞ」

 そういうと僕と花中島は荷物を持った。


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