「この直射日光は何なんだね?死ぬよ?私はあそこに寝ていたら死んでしまうよ?そもそもなんだね?今日はデートじゃなかったのかね?」
自分で肌を焼きたいと言っていたのに、僕に対して何かいちゃもんをつけてくるキンちゃん。そのまま海に入り、火照った体を冷ましている。
「あー生き返る」
お風呂じゃないんだから。
「琴音さん、私もう泳げますよ」
梓ちゃんがキンちゃんに近づいて話しかける。
「飲み込みが早いもんだね。どれ、私に見せてごらん」
やっぱり女性は女性同士がいいのだろうか、僕と接していた時と比べて若干テンションがあがっている。特に梓ちゃんが。
結局はその後二人で遊び始める。僕を除いてだ。お払い箱とはこのことだろう。さっき自分で「デート」って言ったのにとか、僕が今さっきまで手取り足取り泳ぎを教えてあげたのにとか、とにかくそんなことは一切思っていない。うん。
まあここは男の出る幕ではないかなと思い。僕は無言でビーチパラソルのところまで戻った。木島は未だに軽い寝息をたてながらぐっすりと寝ている。
僕はやることがなくなり、ボーっと二人仲良く遊んでいるキンちゃんと梓ちゃんを眺める。
遊ぶというよりは、ただただ延々と泳いでいるように見えるのだが、二人とも何故か楽しそうだった。「こういうのも久しぶりだな」と内心平和な情景に少し心穏やかになる。そして少し天狗になる。
今までこのようにどこかに遊びに行くにしても、面子は男の集団のみか、女性が含まれても美術部のイベントで行くようなそれはまるで修学旅行のような団体であり、少人数で遊びに行くことはほとんどなかった。正直キンちゃんは美人だ。偶然だが梓ちゃんという、かわいい女の子まで加わっている。そして木島もなんだかんだ言って外見はかっこいい。そして乳首のおかげで更に注目を集めている。僕を除いて皆が皆注目を集める外見をしている人たちと個人的に集まっているわけだ。まあ僕もその中に紛れ込んでいるのだから、少しは優越感を持ってしまうというものだろう。逆に僕が空気のような扱いになるとしてもだ。
キンちゃんと梓ちゃんが二人で遊んでいると時々、男がフラフラと寄って行き、声をかけては退散させられている。
その度に梓ちゃんは大きな声で「マジキモインデスケドー☆キャハッ☆」と日本人男性が言われたくない言葉トップテンに入る言葉を浴びせ、キンちゃんは「海とはな、発情期の人間だけが集まる場所じゃないのだよ。交尾したけりゃ発情期中のサル山に行ったほうが早いよ」と、その人間を否定する言葉を浴びせている。
その度に男性達は顔を白黒にして、言葉を失い退散していく。中には怒るやつもいるのだが、キンちゃんがその後に発する言葉で何故か意気消沈し、そのまま去って行ってしまう。何を言っているのか興味はあるが聞く気はしない。よほどひどいことを言われているのだろう。
そのような光景をボーっと見ていた僕の横で、木島が一瞬体をビクらせ、ワサワサと動いた後、体を起こした。
「・・・・・・・・・・・・あっちい」
まあ当然の反応だった。卵さえ焼けそうな日差しの中、影にも入らずに肌を焼いているのだ。涼しいということはあるまい。焼けやすい体質なのか、体は結構真っ赤になっていた。
「あら?隣にいるのはむっさい男のイブキだけか。他の二人は?」
「むっさい言うな。二人はあっちだ」
ほれ、と僕は言いながら二人が遊んでいる方向を指差す。
「うお、眩しい!」
とアホみたいなことを言いながら目を隠す木島。
「我が妹もなかなかいいもんじゃないか。口が悪いが。・・・・・・・・・・・・あれ?そういや妹泳げてね?」
「うん。泳げてる。僕が教えたらすぐ泳げるようになったよ」
「・・・・・・・・・・・・・・イブキすげえな」
「僕がすごいんじゃなくて、梓ちゃんがすごいんだろ」
「いや、そういう意味じゃなくて。・・・・・・・・・・・・あいつ男嫌いなんだよな」
「ああ、分かる分かる。まあ別に僕になついてるってわけじゃないよ」
「いや、十分なついてるって。普通の男が教えようとしても絶対に断るはずだし。それどころか、罵声を浴びせて追っ払うのが落ちだ」
「そういう人を僕に押し付けたのか」
「うん。イブキがへこめばいいなと思って」
「お前はクソだな」
そもそも僕が教えるといい始めたのではなくて、彼女から教えて欲しいと誘ってきたのだからある程度はなついてもらってると考えていいみたいだ。木島が言うには。いいことだ。
「いいなあ、あの二人いいなあ」
といいながら木島は女の子二人の方へと立ち上がりフラフラと歩いていく。正直に言うと僕はそれを止めもせずワクワクしながらその様子を見ていた。
木島がある程度距離を詰めたあと、二人が木島の来襲に気づく。
そして、その距離を詰めさせないように必死で逃げ始める。
それを追う木島。冗談で逃げ始めたとでも思っているのだろう。しかし二人の表情は本気で逃げている。
逃げる二人。
追う木島。
その場をグルグルと回るように、浅瀬を行ったり来たりしている。
五分くらいそれが続いた後、木島が怪訝な顔をし始める。いくらなんでも逃げすぎだろうと気づいたみたいだ。
それに対して、梓ちゃんが自分の胸の周りを指差したあと、木島の胸辺りに指を差す。
それにつられて自分の胸を見る木島。
数秒の沈黙の後、今まで楽しそうだった表情が一気に崩れた。
「ほおぉぉっぉおぉぉ!」
妙な叫び声を上げた後、海に胸まで使って底の砂を掬い取り、一生懸命に胸を洗い始める。
その間に逃げる二人組み。その表情は本気。
木島はひとしきり胸を洗い、自分の胸を確認した後手で胸を隠しながら僕の方へとダッシュで走ってきた。
「イブキ!イブキ!」
「どうした!木島!」
まあ正直僕は笑いを抑えていたのだが、木島の表情を見て知らん振りを続ける。
そして僕の目の前で立ち止まり手を放す。
「俺の乳首が開花した!」
しかも泣きながら。
そこには綺麗な花が描かれていた。
「ち、乳首は花じゃねえよ」
律儀に突っ込みはしてあげたのだが、僕は耐え切れずに盛大に噴だした。