0.プロローグ

ああ、すさまじくうるさい。

「てめえ、何ガンくれてんだよ」

 この僕の目の前で女性にガンをくれている男は新木女(しんぎめ)鹿(が)。身長は百八十後半。高校三年生になっても今だ身長は伸びているらしく、僕は彼の正確な身長は知らない。ってか別に知りたくも無い。それは僕の身長が低いという僕のコンプレックスによる僕のための精神の防衛策だ。何人たりともそれを侵害してはならない。

 髪はボサボサに伸ばしており、少しだけだが天然のパーマがかかっている。眉は手入れをしていないに細く、目は普段から寝ているように二重。体格は身長に比例してがっちりしている。脱げばすごい。というかこいつが家にいるときは冬でも上半身は必ず裸なので僕は裸と服を着ている時間をほぼ半々で見ているわけだから、脱げばすごいという形容も何かおかしいってなもんだ。こいつと喧嘩する奴は男子なら喧嘩する直前に器の違いを痛感し弟子入り、女子ならその容貌に立ちくらみを起こしファンクラブに入会する。

「ああ!てっめえどこ中だよ!」

 ってかお前何歳だよ、と突っ込みたくなるようなセリフを吐いた女性。高校三年生になっても「どこ中」も何も無いだろう。女鹿に負けず、ガンを飛ばしている。名前は荒木(あらき)蘭(らん)。苗字通り気性は荒い。髪は一昔前の不良を彷彿とさせる、というよりもそれを真似ているのだろう、腰に届くくらいの黒髪長髪。キューティクルがビューティフルでヘンデルがグレてる感じだ。はっきり言ってこいつが教室で休み時間に大人しく本を読んでいる姿は、秋を憂う薄幸の美少女と評しても過言ではないのだが、本人的にはグレているらしい。まあ言動が確かにそうなのだが、声はアニメ声、身長は僕の胸の辺りにも及ばないからおそらく百五十ないくらい。つまり凄んでも迫力が一ミリグラムもでていない。喧嘩腰になっても可愛さと愛らしさ、ハートマークと星マークしか出てこないような感じだ。喧嘩に発展する前に、男子であれば抱きつきたくなる衝動に逃げ出し、女子であればその可愛さからメル友に発展するのがほとんどだ。

 いや、分かってる。自分で説明していて、何か滅茶苦茶な説明だということは。なんだそりゃ、ばっかじゃねえの?意味わかんねえよ。と僕の年下の従兄弟がこの説明を鼻で笑い、実際に女鹿に喧嘩を売りに入ったら翌日から僕でさえ呼ばれたこと無いのに、女鹿のことを「兄貴」と呼んでいるし、それならば!と蘭の所へと様子を見に行ったら一時間後に僕の部屋へと逃げ帰り、鼻血と涙と失恋で僕の大切な枕をゴミにしてくれた。

「少し可愛いからって海里の前でぶりっ子ぶってんじゃねえよ」

「あんたこそ幼馴染って立場利用して鏡君とずっと一緒にいるんじゃないわよ!」

 ちなみにこいつらが呼んでいる名前は僕のこと、鏡が苗字で海里が名前。鏡(かがみ)海里(かいり)が僕の名前だ。みんなよろしく。

 まあ、こんな二人の説明よりも、今僕がいる場所及び状況について説明してみよう。

 場所は異空間、状況は全てが終わった後。

 ほんの一時間ぐらい前まで存在していた、ヨーロッパ辺りの考古学者が目にしたら卒倒しそうなほどの古代の遺物達がほとんどと言って良いくらい完膚なきまでに破壊しつくされている。全てはこの二人がやったこと。事の発端は僕。それと運命の悪戯、もしくは試練、もしくは嫌がらせ。神が存在すると知った今、僕は近いうちに今の神様をぶん殴りに行こうかと思う。この二人がいるなら何とかなりそうだ。ついでに神様の家があるのならぶっ壊して家なき子にするともっと気持ちが落ち着くのかもしれない。そうした後は橋の下へエスコートしてあげよう。

 さっきも言ったように事の発端は、この僕、鏡海里にある。ちなみに僕が何かをしたわけではない。僕の存在そのものが事の発端だったらしいので、その「事の発端」という部分は甘んじて受けよう。しかしこの話がここまで破天荒で、収拾がつかなく、意味が分からなくなったのは僕のせいではない。断じてない。絶対にない。それは神様に誓う。いや、神には誓わない。あいつはクソだ。僕自身に誓う。僕の心に誓う。

 今だ言い争っている二人を見る。顔がくっつかんばかりに接近しながら互いを罵りあっている。本当に片方が元神様で片方が神様候補という事実が怪しくなってくる。

 まあ全ては終わったからなんかどうでも良い感じだ。

 地獄の一週間を思い返してみる。神は一週間で世界を作った。はっ、どうでもいい。こいつらは一週間で僕の日常を壊したわけだ。全く逆の話だ。

 僕の日常が綻びを見せ始めた、その時を僕は苦々しく思い出した。