「はーい、皆さん注目!これから皆さんに殺し合いをしてもらいます!」
目の前の銀色の物体が叫ぶ。テレビでプライバシー保護の時にかけるような甲高い声で喋っている。銀色の物体は前知識に照らし合わせて言うと俗に言うグレイってやつだ。歌わないほうの。目は顔の半分を覆うくらい大きく、全身を銀色のスーツみたいなので身を包んでいる。ただ、前知識と違っている部分がある。身長がものすごく高い。百八十くらいはあるのではないだろうか?
俺達五人を縄で縛ったまま横に並べて、更にわざわざどこから取り寄せたか知らないが学校の教壇の前で力説している。外の窓には地球の映像が見えている。少なくとも俺達が通っている学校の教室ではなさそうだ。
「ってかお前を殺す」
グレイから見て一番左にいる短髪の金髪が喋る。見るからに不良って感じの学生。・・・まあ実はクラスが同じなので名前は知っているのだが。面倒なので説明は省く。ってか俺と関連は無いので説明しない。
「滑ってる新任教師の挨拶かよ」
その右隣にいる黒髪のメガネが冷静にツッコんだ。こいつも同じクラスの奴なのだが同じく説明を省く。バレンタインに大量のチョコレートをもらう奴は男としての敵なので。敵の説明をするほど俺も気が長くないので。
「・・・・・・イックシ」
次の右隣にいる長い黒髪の男は志村ケンに似たくしゃみをした。こいつも同じクラス。こいつは昔からの友達なので名前くらいは紹介する。園寺絵流。幼稚園に入る前からの腐れ縁。
「殺してください・・・いっそ殺して・・・」
四番目にはとうとう女の子がきた。縄を縛る際、彼女のスカートがめくれるように縄に巻き込んで縄を縛っている。顔を真っ赤にして懇願している。この子も俺と同じクラス。まあ結局は皆同じクラスなのだが。
実は俺はこの子に惚れている。こんな場面で何だが、彼女の説明をするにあたり少しは饒舌になろうってものだ。名前は田尾八女。黒髪の日本女性。日本の美を詰め込んでも足りないような美しさを彼女は持っている。簡単に言うと美人。しかも教室の隅でいつも本を読んでいるという、一部の男子には興奮するという設定を持っている。
そしてその横にはこの僕だ。彼女の秘密の花園ばかりに気を取られていられない!ここはビシッと一言カッコよく決めて俺の株をアップさせる!言う言葉は何にしよう?ここはビシッと男らしく「せめてこの子のスカート下ろしてやってくれ!」って言う事に決めた。どうだ?カッコいいんじゃないか?
息を吸い込んで言葉を吐き出す。
「せめ「みんな反応わるいなぁ〜!せっかくこのためにバトロワ見返してきたのに」
・・・・・・言葉かぶってんだよ。しかも初めて喋る言葉なのに。
グレイは調子にノッて話を続ける。体全体を使ってボディランゲージも取り入れつつ。しかもその身振り手振りが大げさで、外国かぶれの日本人の動作にしか見えない。
「まあ、それもそうだよね。いきなりこんな宇宙船に乗せられて、しかも身動き取れないし。そう、悪いのは全部僕なのだよね。そう、この僕なんだ!そんな僕の話に耳を傾ける事は普通の人は出来ないと思う」
そう言うと後ろを向いて更に上を向いた。涙がこぼれないように・・・という振りをしているらしい。なんっつーか嘘泣きにしか見えねえ。
・・・・・・・・・・・あれ?後ろにチャックついてね?よーく見たら頭の後ろにも割れ目が見えている。
「ちょっと、あんた。それヘルメットじゃねえ?」
俺がそう聞くと上を向いていた後ろ向きの体がビクついて、すぐにこっちの方を向いた。
「・・・・・・見間違いだ」
顔の表情は変わらずに声だけ凄みを増して聞こえる。やっぱりヘルメットじゃねえか。
「まあ、それはいいとして。普通の人たちは僕の話をいきなり聴く事は出来ない。しかし君たちは各々は知っているだろうが、普通とは呼べない人達だろう?」
そう言うとグレイはニヤッと笑った・・・気がした。雰囲気的にはそんな感じ。
自分は経歴に傷はないし、特に特別な人間でもないごく普通の高校生なので、該当していない。
・・・春先にこういう頭がやばい奴増えるよな。
可哀そうになってグレイを見つめていると、「そういう目で見るな!」というジェスチャーをした。
みんなまたそれぞれに文句を言うのだろうな〜と思い、みんなの方を見てみると、絵流以外みんな青ざめた顔をしていた。田尾さんだけ色が混じって早い時期にプールに入った時の唇の色だった。絵流は特に表情を変えることなくボーっとしている。
「まずは、金髪!神崎隼人!」
不良が体を一瞬震わせる。その表情は世界の終わりのように悲惨な顔になっていた。
「幼い頃に研究者の両親を事故で亡くす。山奥に住んでいる祖父と祖母の二人に育てられたが、中二の頃にその祖母も事故で亡くす。その時に事故を不審に思い独自に調査。犯人を突き止めるのだが、そこは「ジェネシス」という悪の秘密結社で返り討ちにあう。そこで悪の秘密結社に捕らわれて改造手術を受ける。しかし運良く洗脳される直前で助かり脱出。以後改造された体を使い悪の秘密結社と戦い、つい先日にその戦いを終わらせたばかり。どっかの会社から抗議を受けかねないくらいの人生・・・あってるね?」
グレイが喋り終わると同時に金髪の男、神崎隼人がグレイを睨む。しかし否定をしようとしない。
「次にイケメン眼鏡!空蝉ギシリ」
イケメン眼鏡は苦々しい顔でグレイを睨む。イケメンを否定しないとはこいつはやはりムカつく。
「幼い頃からの特訓に次ぐ特訓により現在は忍の頭領。忍の天才。通称「ミスト」。一年前までは訳ありで何でも屋を営んでいた。今はすっぱり足を洗い、普通の高校生活を送ろうとしているのだが、あまり上手く高校生活が送れないでいる。ちなみに何でも屋時代のミッション成功率は国家レベルのものを受けても百パーセント。どっかの奪還を生業としている者達より信頼がおける。得意なスキルは潜入及び暗殺。どこぞの蛇も真っ青だ。更に突っ込むと友達が欲しいと切に願っている。合ってるね?」
「な、何故そこまで・・・知っている」
狼狽した空蝉ギシリが呟くように言う。・・・友達いなかったんだ。そりゃあんだけモテりゃ周りの男どもはやっかんで自分から仲良くしに行こうとは思わないんだよな。女好きって風にも見えないし。
・・・ってか二人とも馬鹿みたいな話に何で動揺してるんだろう?そんな特撮モノやアニメみたいな展開の人生ありえないって。作り話と思うと興味があるのだが。
「三人目!・・・・・・園寺絵流!」
「腹減った」
絵流は顔色も変えずに普通に呟く。いつもと変わらない。
・・・こいつは何もねえよな。ただ喧嘩が気持ちいいくらい強いってくらいだろう。それと拷問オタクのドS。それくらいなものだ。幼稚園の頃からの腐れ縁だし、大体は一緒にいる。夏休みとかはさすがに毎日一緒にいると言う事はないが。
「『ノイズキラー』『ジャック・ザ・リッパー』『ビリオン』など地域によって違う数々の通り名を持つ、現在日本で最強の殺し屋」
「・・・・・・っええええええーーーーーーーー!」
思わず俺が叫んでしまった。何それ?こいつが殺し屋?あり得ない!笑いがこみ上げてくる。
体を前に滑らして絵流の方を見る。
俺のほうに体を向ける絵流。俺の表情を見て顔が本気で不思議そうにしている。
「・・・・・・マジなの?」
「・・・・・・?昔言っただろ?」
「またまた。・・・・・・ちなみにいつ言った?」
「小一の夏、七月二十日一三○五」
「ガキの頃かよ!覚えてねえしガキがそんなこと言っても信じられねえって!」
・・・・・・この歳になって言われても信じられないだろうが。
絵流は特にもう言う事も無い、というふうに顔を俺から背けて、下を向いて飢餓を訴えている。そう言えば俺も腹減ったな。・・・・・・今何時だろう。
「・・・・・・説明の途中で遮られたから興ざめしたなぁ。後の説明は本人から聞いておくれ。今から説明しても何か微妙だし」
グレイが俺の方を向いてブツブツと文句を言う。
・・・・・・絵流は絶対自分からは言い出さないよこいつ。
グレイは「まあいいや」と仕切りなおして次の説明に入った。
田尾さんの番だ。
「次に薄幸の美女、田尾八女」
あ、呼び捨てにしやがった。何様のつもりだ。
田尾さんの方を見てみると彼女も真っ青な顔をして地面を凝視している。
「小学校四年生の頃から現在に至るまで、ずっと魔女っ娘をやっている。敵を倒そうとするも、そんな度胸も無く、逆に友達になってしまい倒すことも出来ぬまま最終回を迎えることなくいまだに魔女という悲惨な状況にいる。現在の年齢十六歳・・・・・・十六歳で魔女っ娘。魔女っ娘ねえ・・・。もう子供じゃないじゃない。大人になれよ・・・」
最後のほうは、説明というよりも説得、諭す感じで喋っていた。
「わ、わかってますよぉ!けど今更どうしようもないじゃないですかぁ・・・」
田尾さんが顔を赤らめ、目に涙を浮かべながら訴える。
や、やべえ。何かいい。
・・・・・・そうじゃなくて、田尾さんも否定をしていない。普段はおしとやかで誰にでも優しいのだが、否定や反抗するときにはかわいく反抗する。見ているこっちがお父さんな気分になる。微笑ましい感じだ。そんな田尾さんも否定はしない。・・・・・・皆でただ俺を担ごうとしているだけじゃないのか?
グレイは両手を天に掲げ、元気な玉を撃つような格好をしながら「やれやれ」と呟く。仕草人間として間違ってるし。日本人じゃないのかもしれない。オタクかぶれの外人がやりそうなポーズだ。
それぞれの顔を改めて見渡してみる。やっぱり絵流以外の人物は悲痛な面持ちをしている。やっぱりドッキリだろこれ。絵流をチョイスしているのがミスキャストだな。彼は嘘をつかない。・・・嘘じゃなかったらまずいんじゃない?絵流は殺し屋と言っていたし。
「そして最後!矢倉星!」
俺の名前が呼ばれた。
・・・・・・何て説明されるんだろう?はっきりと言っておくと、俺は完全に普通の人間だ。つまりこいつが何か変な事を言った時点でこれが嘘だという事がハッキリとする。
出来ればヒーローものがいいなあ、と内心思いつつ俺は言葉を待つ。これから始まる爆発交じりの殺陣。俺に惚れる田尾さん。俺にひざまずく三人。考えただけで楽しそうだ。
「・・・・・・この五人の中では一番異常、最高にして最悪。『クレイジーラック』つまりは『狂運』の持ち主。全ての元凶、幸運の原点、運命の特異点、ありえない存在。神の間違い」
・・・・・・あれ?何か酷くね?クレイジーラックなどとは聞いたことはないのだが、それでも元凶やらありえない存在やら、何か俺が悪いような言い方をしている。
「何ていうか手に負えない。関わったら命の保障が出来ないのに今まで知り合いが事故などで死んだ事なし。「最高の運」と「最低の運」を同時に併せ持つ。いままで人生に何の事件もなし。完璧にして欠陥品。以上」
「なんだよそれ?俺は別に運がいいとか思ったことないし悪いとも思ったことないぞ。『狂運』って何だよ」
ましてや手に負えないなどと言われた事ない。町内会では「矢倉家のスター」としていい子で通っているし、もちろん俺自身人の手を煩わせた事などない。人に迷惑はかけないというのが俺の信条だ。
「運がいいとか悪いとか一度も思ったことないだろう?下手すれば考えたことすらない」
「まあ考えたらその通りだ」
「だろうな。全くもって狂ってやがる。その歳になってまで幸運も不運も感じた事が無いなんて」
何だよ。普通だろ。そりゃあ人生がついてなくて悲惨な目に遭ったりする人もいたり、逆に幸運な人もいたりはするだろうが、平凡な人生を送っている奴が大半であろう。俺だけが特別って事はない。
「幸運と不運が互いに拮抗していたのだろう。しかも超重量だから些細なことで天秤はほとんど揺れない」
・・・何を言っているんだろう?訳が分からなくなってきた。意味が分からん。
グレイは最後の言葉を言った後に皆の方へ向き直った。
「まあいいや。今回僕に拉致られた時点で不幸が始まるだろうし。不幸を小突いてやったからな」
不吉な事を言う。まあこの現状、不運と言えば不運なのだろう。拉致は不運だ。その前に犯罪であるが。
「えー、絵流君と星君以外は互いに面識が無かっただろうから、これからの事を思い円滑な人間関係を築けるように、君らの秘密を洗いざらいぶちまけちゃいました。身に覚えがあるだろうから僕が嘘を吐いていないと分かったはず。あ、ちなみにプライバシーの保護なんてものは一切無視です。シカトです。訴えても僕は見ての通り地球人じゃないから法は適用できません。いやぁ残念無念」
「・・・・・・いや、チャックついてるし」
「だまらっしゃい」
・・・宇宙人ってのは常識的に考えてありえないと思う。いや、何より俺のは秘密でも何でもない。嘘っぱちってやつだ。
「何をさせるつもりだ?そんなメンツを集めて」
イケメン眼鏡がいきなり叫んだ。そんなメンツって、確かに学校生活の中では濃い人間達ではあるが、俺に関しては特に珍しい事も無いだろう。
「だから、最初に言ったでしょ?殺し合いをしてもらいますって」
「・・・・・・」
イケメン眼鏡空蝉と金髪神崎が歯軋りをする。絵流は寝てる。田尾さんはうつむいている。
・・・・・・殺し合いって。頭が飛んでる奴が言うと信憑性の有る無しに関係なく恐怖を感じる。
「と言っても、別に君たち同士に殺し合いしてもらうわけではないので安心してね。それはそれで面白いと思うんだけどあまりにも意味がなくなるんだよね。一部のマニア達しか喜ばないというもんだ。というわけで、僕も喜べるように『悪の組織』と戦ってもらうよ」
何がというわけ、何だか分からなかったが「悪の組織」とな?ヒーローになれということか?
「またかよ!」
神埼が叫んだ。そう言えばこいつは今さっきの説明で、どっかの悪の秘密結社と戦っていたと言っていたが・・・演技が中々上手いなこいつ。叫んでいる姿が中々様になっているじゃないか。
「悪の組織って・・・これ以上揉め事はいらないよ」
空蝉がぼやく。こいつは何でも屋から足を洗ったと言っていたっけ?・・・・・・こいつに関してはムカつくだけなのでもっと苦労して欲しいと思う。
ちなみに絵流は寝ているので省略。
「更に悪の組織って・・・これ以上敵はいらないです」
悲壮感漂う表情で口からこぼす。田尾さんは「魔女っ娘」・・・・・・そう言えば敵と仲良くなったと言っていたな。もしそれが本当ならば新たに敵が出来る事でまた戦うことになるであろう。そうなれば彼女の「魔女っ娘」姿が見れるんじゃないのか?それが本物であってもコスプレであってもその姿は見てみたい。
「君たちの拒否は受け付けません。ビシッと断る!・・・・・・というか実は僕がワザワザ悪の用意をしたわけじゃなく、君たちの世界に潜んでいる悪の組織をあぶり出して君たちに退治してもらおうという算段です。水面下で日本転覆や世界征服を企んでいる輩を君たちに片っ端からぶつけていきますんでよろしこ」
よろしこって・・・完璧に日本人だろうこいつ。しかもテレビ好き。
三人が不平を立て続けに訴える。しかしグレイはそれを鼻歌交じりにシカトする。
「オウ、ニホンゴワカリマセン」
外人の真似をする。うわ、ベタだしムカつく。
というか、よく考えたら俺達がやる必要なくねえ?俺達に何らかの利益があるのならいいのだが。というわけで聞いてみる。
「それをやるとして俺達に何かいいことあるの?」
直球で聞いてみる。
「僕が喜ぶ。友情が芽生える。不幸な人が少なくなる。田尾さんの魔女っ娘姿が見れる。そして世界が助かる。もともと誰かがやらなければいけないことだしな」
「お前が喜ぶ事が先かよ」
やっぱり飛んでやがる。脳みそに蛆わいてるんじゃねえ?っつか俺らに利益が何も無いのかよ。しかし魔女っ娘が見れるのは大きなプラスではあるな。それなら仕方ねえって気もする。・・・っつか賛成。むしろ茶番でも付き合ってやろうってものだ。
「世界が助かり不幸な人が少なくなるか・・・・・・仕方ない。その茶番に付き合ってやろう」
神埼が歯軋りをしながら呟く。さっきからギリギリギリギリと・・・。そろそろ歯が無くなるんじゃねえ?はっきり言って耳に障る音なんだよな。しかも俺と言う事かぶってるし。
「そ、それなら仕方ない」
空蝉はそう言いつつも何故か少し嬉しそうにしている。よく見てみると嬉しさを押し隠そうとしているようにも見える。・・・・・・もしさっきグレイが言っていた「田尾さんの魔女っ子を見れる」に反応しているのであれば殺す。「友情が芽生える」に反応しているのであればキモい。
「か、勝手に私の姿を『何かいいこと』にしないで下さい!」
田尾さんはいまだにスカートを直そうとしながら、顔を赤くして怒っている。かわいいなぁ。・・・カメラに写したいくらいだ。全身を。
特に俺と絵流は言う事も無く、結局は四対一の形で賛成という事になったわけだ。絵流の棄権票は俺が勝手に使う事にする。
「まあそういうことになったから、今から頑張って。僕も陰ながらお前らの邪魔するから」
「邪魔すんのかよ」
「あでぃおうす!」
それじゃあ、と一言グレイが告げると部屋全体が暗くなった。照明を落としたのだろう。
そして俺の意識も遠くなった。